周りを見渡せば、子供たちや学生の姿が。
春休みかー、と我が事のように心踊る。
日差しも柔らかくなって、長いことワタシ達の影を落としている。
花の香りはまだしない。
そんな春らしい日を待ちながら、随分遠いところに来たんだなと、昔の卒業や入学のことを思い出す。
あの独特の空気と、心臓のあたりを掴まれるような感覚。
冬から暖かくなるにつれて一枚ずつ服を脱いでいく。
シャツ一枚になった時に必ず思い出すものがある。
友人の自転車に二人乗りで、決して近いとは言えない大型スーパーまで出掛けた。
とても暑い日で、昼間の強い日差しにバテながら、上り坂や細い道を走っていた。
ワタシはずっと後ろに乗りながら、通り過ぎていく景色だけ見ていた。
二人で夏用のサンダルを買って、早速履いて帰った。
仲良しのみんなで海に行こうって計画を立てていた。
だけど夏が来る前に喧嘩して、その子と海に行けなかったんだ。
時間と共にいつの間にか仲直りしていて、次の年の春、ワタシ達はまた自転車に乗って二人で買い物に出掛けた。
やっぱりワタシは後ろに乗っていて、その子は文句も言わずに一生懸命ペダルをこいでいた。
それから、お互い違う道に進んで、ある日突然その子から電話がかかってきた。
仕事で忙しかったワタシは、また今度メールするねって言ったけれど、そのまま約束を忘れてしまった。
ある時思い出してメールしてみた。
その子と連絡はとれなかった。
今でも桜が咲く季節になると思い出すなんて、その子は知らないに決まってる。
だけどワタシは今年も思い出した。
あのサンダルはもうどこかへいってしまった。